教授の雑文Essay

回復力

2022年11月

 2022年の呼吸器内科領域は明るい話題が多かった。
 進行期肺癌に対する殺細胞性抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤を併用した複合免疫療法は、薬物療法に大きな変革をもたらした。
 上皮サイトカインとして知られるTSLPやIL-33は、様々な環境因子の刺激により放出され様々な免疫炎症反応を引き起こすため、我々も注目し研究してきた。その制御は喘息の増悪予防策と考えられ、抗体医薬が近々上市される。
 さらに、新規PDE4B阻害薬により、肺線維症の肺機能低下を抑制する効果が今年の米国胸部学会ATSで発表され、FDAのBreakthrough therapyに指定された。

 世界では、今この時にもロシアのウクライナ侵略戦争は続いており、かつてない円安やインフレは着地どころを見つけられていない。洪水や干ばつなど天災による暗いニュースの報道ばかり目につく。
 人は本能的に情報を集めるのだという。その本能は暗いニュースを集めて、迫り来るかも知れない脅威に無意識のうちに対応しようとしているのだと。しかし、私にはそんな時こそ少しでも明るい話題を見つけて、それに共感しようとする力が強く働くのが人間だと言う気がしてならない。

 人種や文化、考え方の多様性を具現化した米国では、社会の分断が繰り返し日本でも報じられている。その米国、中間選挙の争点は、記録的なインフレ対策、中絶の権利、移民政策、銃規制をめぐる議論だとマスコミは言い続けた。過激な考え方があふれ、なかなか話し合いで解決方法や妥協点をみつけられない。これまでは、話し合ってお互いを尊重し合うことが米国人の矜恃であった。今の社会の分断は、政治的分断を反映し価値観を共有できる相手としか交流しなくなったと。
 しかし、マスコミが盛んに予想報道した「赤い波」は起こらなかった。

 年末になり喘息の国際治療指針GINAの会議が、指針を詰めていくため毎月1回多いときは2回、Webで開かれる。会議が始まる前のわずかな時間だが、参加者がそろう前に各国の現状が話題となる。
 Webで接する限りだが、米国のメンバーは、あまり自国での社会の分断を悲観視していない。明るい未来を信じているようだ。ヨーロッパも同様で、国家間格差が拡大するEUに属する国のメンバーもEUを楽観視している。
 そこには、これまでたくさんの浮き沈みがあったが、いつも回復力を発揮して今の世界はよい方向に向かっていると信じているようだ。まずは家族や地域社会を大切にしたいという根本的な価値観は今も確固とあって、それが彼ら彼女らの基盤であることはウクライナ情勢をみてもわかる。

 多様性のある国の強さと楽観視。その根本は、他人や地域社会を尊重する精神での回復力ではないかと感じる。
 人類は様々な疫病を体験しその度生き抜いてきた。コロナウイルスとの戦いは、たくさんの苦しみや悲しみがあった一方、我々はそれらを共感することと受容することを学び、思いやりを持って団結できたチャンスでもあった。それはしゃがみ続けたこれまでから、より高くジャンプするチャンスでもある。

井上 博雅