教授の雑文

井上博雅教授の雑文

鹿児島の(2014年同門会誌)

2014年11月

鹿児島ゆかりの作家 向田邦子の机には、の引き出しがあった。は「うまいもの」の意である。食べて美味しかったもの、美味しかった食べ物屋の情報をとりあえず放り込んでおく引き出しである。向田ファンならずとも覗いてみたくなる。

鹿児島に住んで4年。その食文化への興味は深まるばかりだ。お陰で、最近増えた学生や研修医との会話の取っかかりには不自由しない。
まずは、好きなラーメンの話から。初めは、各々スープの好みなど穏やかに話す。魚介類か豚骨か、醤油か味噌か。鹿児島のラーメンはバリエーションが多岐にわたり、「鹿児島ラーメン」とひとくくりにはできないと私は思っている。
そのうちラーメン屋の話になり、ここからは生来の負けず嫌いが顔をもたげて、学生相手に行ったことのあるラーメン屋をいくつ挙げられるかの勝負になる。大人気ないことこの上ないが、若者の広い行動範囲を相手に、なかなかの良い勝負をしていると自負している。鹿児島のラーメンは、具材が豊富な分、博多ラーメンに比べて単価が高い。学生にとってはお気軽な一食にはならないのかもしれない。

学生の頃の我が身を思うとラーメン屋のハシゴもままならなかった。しかし、特別な日は、つま先がぐらぐらするくらいの背伸びをして、高級レストランに行ったものだ。若い学生諸君には、頑張って是非敷居の高い場所にも足を向けてほしい。背伸びをして恥をかいて、高いお金を使う。けれど、若い時期のその投資には確実な利益があるはずだ。

私にとっての鹿児島の一番のは、種類が豊富な魚介である。博多から異動したばかりの頃、都会では高級魚であるハモやヤガラが近所の魚屋に並び、安価に手に入れられることに驚いたものだ。早速、合羽橋道具街まで出かけて妻よりも高い包丁を求め(私は道具から入るたちである)、ときどき魚料理に挑戦しては、妻に厭がられている。

卒業後、都会をめざす若者達。この食も景色も美しい鹿児島で6年、大学生が好きな者はそれ以上も過ごすのだから、できるだけ多くの体感をして、社会人になる糧にしてほしい。 しかし、鹿児島は深い。6年間やそこらでは、その魅力を味わい尽くせるはずもない。社会人になって体感する「本物。」の鹿児島に、君らは驚くことだろう。 我々大人は、その「本物。」の魅力を伝えていく責任がある。巷で話題の4Kムービー”Kagoshima, Energetic Japan” に負けてはなるまい※。

学生や研修医とのやりとりはとても楽しいひとときだ。次にはどんな勝負をしよう。
屋久島の「縄文杉」、種子島の「千座の岩屋」、奄美大島に隣接する加計呂麻島の「諸鈍長浜」の砂浜はほんとうに美しかった。一番を求められても決められない。まだまだ行ってみたいところがたくさんある。
やはり、鹿児島で訪れたことのある美しい場所での勝負といこうかな。

※追記(2015年11月):敵もさる者で、鹿児島県の離島をドローンで空撮BIRD'S EYE VIEW OF KAGOSHIMA を最近アップしてきた!